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広島地方裁判所 昭和62年(わ)213号 判決

本店の所在地

広島市中区大手町五丁目一三番一四号

法人の名称

有限会社うず潮

代表者の住居

広島市中区羽衣町一番二号

代表者の氏名

大形力男

本籍

広島県安芸郡音戸町大字渡子五、七五七番地

住居

広島市中区羽衣町一番二号

会社役員

大形力男

昭和八年九月二九日生

右被告人及び被告人会社に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官徳田薫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社うず潮を罰金一二〇〇万円に、被告人大形力男を懲役一年に処する。

被告人大形力男に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社うず潮は、広島市中区大手町五丁目一三番一四号に本店を置き、旅館業を営むもの、被告人大形力男は、同会社の代表取締役として、その業務全般を統括しているものであるが、同会社監査役大形フサエほか一名と共謀の上、同会社の業務にし、法人税を免れようと企て

第一  昭和五七年一二月一日から同五八年一一月三〇日での事業年度における同会社の実際の所得金額が五六七九万五九四六円で、これに対する法人税額が二二七七万八九〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外し、無記名割引金融債券を取得するなどの方法により右所得の一部を秘匿したうえ、同五九年一月三一日、同区加古町九番一号所在の広島西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三一九万四二〇一円で、これに対する法人税額が八四万三二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により法人税二一九三万五七〇〇円を免れ

第二  同五八年一二月一日から同五九年一一月三〇日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が六〇四四万七六九一円で、これに対する法人税額が二五一一万七九〇〇円であるにもかかわらず、前同様の方法により右所得の一部を秘匿したうえ、同六〇年一月三一日、前記広島西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一八六七万三二四六円で、これに対する法人税額が七〇二万九七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により法人税一八〇八万八二〇〇円を免れ

第三  同五九年一二月一日から同六〇年一一月三〇日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が一七六四万五四七三円で、これに対する法人税額が六六一万一八〇〇円であるにもかかわらず、前同様の方法により右所得の一部を秘匿したうえ、同六一年一月二八日、前記広島西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四一〇万五八二二円で、これに対する法人税額が一二二万八一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により法人税五三八万三七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(昭和六二年三月六日付-検67号を除く八通)及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  証人大形文明の当公判廷における供述

一  大形広美、大形フサエ(同年三月九日付〈二通-検24号、25号〉を除く一二通)、大形文明の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の写真撮影報告書

一  大倉事務官作成の臨検捜索てん末書、写真撮影てん末書(二通)、調査事項報告書、現金調査書(二通)、事業税・未納事業税調査書(二通)、定期預金調査書、有価証券調査書、受取利息・仮払金調査書、租税公課未払金調査書、社長借調査書、欠損金の当期控除額調査書、貸付金調査書

一  商業登記簿謄本

一  押収してある法人税決議書綴一綴(昭和六二年押第八六号の1)

判示第三の事実について

一  大形フサエの検察官に対する同年三月九日付供述調書(検24号)

(法令の適用)

判示所為

法人税法一五九条一項(更に、被告人については刑法六〇条、被告人会社については法人税法一六四条一項、一五九条二項)

刑種の選択

被告人について懲役刑選択

併合罪の処理

被告人について刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重

被告人会社について同法四八条二項

刑の執行猶予

被告人について同法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、被告人及びその家族が被告人会社の経営するホテルの改築資金を貯めるなどとして売上除外の方法を用いて三事業年度で合計四五〇〇万円余りの法人税を脱税したという事案であって、脱税額が多額であることは右にみたとおりであり、逋脱率も高く、売上から除外した現金はある程度の金額を貯めたうえ無記名証券を購入し、これが国税当局に発覚しないようにボイラー室に隠匿、所持するなど巧妙な手段を弄しているばかりか、本件の発覚まで数回にわたって脱税を摘発され、その都度修正申告をしてきた経緯がありながら何等の反省もせず本件に至つたものであることも認められるのであって、これらの事情を併せ考えれば、被告人らの本件犯行の犯情は極めて悪質といわなければならない。

もっとも、被告人らにおいて、本件の発覚により、本税、重加算税等一億円余りを既に完納し、被告人及びその家族も今は本件犯行を深く反省していると認められること、被告人はこれまでさしたる前科なく、一社会人として真面目に働いてきたものであり、その家族にとって必要な存在であることなど被告人らのため斟酌すべき事情も認められ、これらの事情を総合勘案して、主文の刑を量定したうえ、被告人に対してはその刑の執行を猶予することが相当と思料した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 田川直之)

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